思考を整理してみよう

思考を整理してみよう

 前頁で例題にした「『心の単純化』に陥らないために」を、練習問題として、もうちょっと整理した文章に書き改めてみましょう。
 前項までの説明では、まだまだこの例題の未整理な部分を、十分に把握できてはいないでしょうから、以下もう少し細かく、この例題について見ていくことにします。
 説明しやすいように、文章のパーツパーツに部品番号をふって、もう一度例題をここに載せます。筆者の思考がどういう流れになっていて、どのような文章にすれば、その思考が読者に分かりやすく伝わるのか考えてみてください。

例題1 「心の単純化」に陥らないために 大石 静
 (1)パソコンも、コトバと同じように急速に進化しているが、(2)パソコンを操れるというだけで、操れない人より上に自分を位置づけている人が多い。(3)いろいろなサイトに顔を出し、自分は身を隠したまま発言を続ける人の使っている言葉には、多くの場合、どこか奇妙なニュアンスがある。(4)見知らぬ人の、見知らぬ部分への配慮や敬意に欠けた精神が、パソコンのキーボードから打ち出す言葉に、私はいつも抵抗を持つ。
 (5)敬語や丁寧語の乱れと消失─これも言葉の進化の重要な一面であろう。(6)他者との距離感や敬意が薄れたことが、敬語や丁寧語の消失を招いた原因であることは明らかだ。
 (7)誰でも対等、誰に何を言っても平気、表現することの恐ろしさも知らず何か語っていれば、黙っていることより価値がある、という風潮も危険だ。(8)過激な言い方だが、我が身をさらした発言以外は、便所の落書きに等しい。(9)そのことを認識すべきだろう。(10)そうすれば、あえて発言する時の言葉の重さ、言葉の選択の仕方は、おのずと変わってくると、私は思う。

パーツ同士の関係を細かく見ていこう

 (1)(2)について、「何となく関係がある」と感じてはいても、文章を書く段階で、その関係づけに苦労して、結局「文書には取り込めない」と判断していかなけれらばならない部分だということを前項で説明しました。
 この(1)(2)についてもっと細かいことを言えば、「が」でつながっている(1)と(2)のつながりもあやふやです。(『ねこ』P38
 (1)では、「パソコン」と「コトバ」の進化を取り上げますが、この文章でそれらをなぜ問題にしなければならないのでしょうか。「パソコン」の進化については、筆者には本文と関わりがあるところで、たぶん何か言いたいことはあるのでしょう。けれども、少なくともこの文章に書かれている範囲ではそれが何なのかさっぱり分かりません。
 「コトバ」の進化については、(5)にもう一度出てきます。これを見る限り、筆者はたぶん「他者との距離感や敬意が薄れたこと」から、他人に対する「配慮や敬意に欠け」るような方向に言葉遣いが変化していると考えているようです。しかしこれも、バラバラなところでほのめかされている程度で、本文の論旨と関連させて述べられているわけではありません。
 言葉の使い方(表現)についてもう少し細かくこだわるなら、そのような「コトバ」の変化を、はたして「進化」と呼ぶのが適切かどうかも気にすれば気になるところではあります。
 (3)(4)のつながりは、このままでもついていないとも言い切れません。しかし、本文のような前後のつながりで(3)(4)を持ってきたのでは、何を言いたいのかをはっきりと自覚して自分の考えを説明しようとした文章になっていないことは明らかです。
 (3)で、「どこか奇妙なニュアンス」を問題にします。このような抽象的で、指す内容のはっきりしない言葉を使う場合には、そのニュアンスとはいかなるものかの説明が絶対に必要です。それを説明しようとして(4)を続けたならば、(4)はこのような書き方には絶対になりません。
 また形式段落の2段落目、すなわち(3)(4)で、筆者が言いたいのは、「どこか奇妙なニュアンス」なのでしょうか。それとも、それに「抵抗を持つ」ということなのでしょうか。(4)のように、「抵抗を持つ」という終わり方をするなら、「私が抵抗を持つ」ことを受けた形で次の段落を始めなければなりません。「どこか奇妙なニュアンス」の説明が大切で、「私」の感情を述べるのは二の次ならば、この段落は、「どこか奇妙なニュアンス」の説明をきちんとした方が収まりが断然良くなるはずです。
 (4)から(5)のつながりについても、前項で説明しました。筆者の意識の中では、「他者との距離感や敬意が薄れた」というところで、「自分は身を隠したまま発言を続ける人」の言動と、「敬語や丁寧語の乱れと消失」とがつながっているのでしょう。しかし、この文章はあくまで、パソコンで「自分は身を隠したまま発言を続ける人」の言動を問題にしているのですから、これをいうなら、その流れの中で取り上げるようにしなければいけません。そのようにして「敬語や丁寧語の乱れと消失」にまでうまく言及できるのか、「敬語や丁寧語の乱れと消失」に言及するのはあっさりあきらめて、パソコンの話だけにとどめてしまうのかは筆者が判断しなければならないところです。
 (1)のように筆者が「コトバの進化」に言及していることから考えると、あるいは筆者は「コトバの進化」にスポットを当てて書きたかったのかもしれません。しかし現状の文章では、それは行きがけの駄賃のような形で触れられているに過ぎないので、もしそこまでを書きたいのなら、文章の全体的な構成そのものを内容を含めて見直す必要があります。
 (5)(6)は、「自分は身を隠したまま発言を続ける人」の言動が起こってくる背景について何となく筆者が付け加えてしまった部分で、(3)(4)から内容が直接続いてくるのは(7)になります。
 ところでこの(7)の「〜という風潮危険だ」というのはどういうことでしょうか。「〜も」というからには、その前に必ずもう一つ危険なことの説明がしてあって、それを受けて「〜も」と受けていくはずです。ところが、ここの「〜も」につながっていく前の部分は、どこを探してもありません。
 筆者の意識の中では、(3)(4)が前の受ける部分だったはずです。しかし、(5)(6)を取ってしまって、(3)(4)からすぐに(7)が続く文章を考えてみればすぐ分かるとおり、(5)(6)と(7)は並列で並べて説明するような事柄ではなくて、前項の問で考えたように、お互いに因果関係がある事柄なのです。ですから、この三つは、その関係を整理して、どのように主張していくか、まとめていかなければいけません。
 なお、筆者がここで「〜も」と書いてしまったのは、(3)(4)と(7)との間に(5)(6)を入れてしまったので、前に書いた(3)(4)から(7)をつなげたいがために、さも別の同類のことがならんでいるかのように無意識のうちに扱ってしまったからでしょう。
 (8)ですが、これをいうのなら、ここが筆者の主張の要(かなめ)になる部分ですから、その根拠を必ず示さなければいけません。ここまでに十分この判断を支える根拠を書ききっているのならいざ知らず、そうでもないのにこのように書いても、筆者の独断を読者に押しつけることにしかなりません。これでは当然読者は納得してはくれません。
 この文章の場合、筆者が自分の主張の理由をきちんと把握して書いていないから、このようにそれらしいことをあれこれ言い散らしながら、問題の周辺をうろうろするばかりで、その理由がきちんと文章に反映されないのです。ですから、(8)について改めて筆者に聞いてみれば、おそらく筆者はそう簡単にその理由を答えることはできないでしょう。
 このような場合、自分で自分の発想の流れをなるべくきちんと整理しようとするのは当然のことですが、もし自分でそれができないのなら、添削をする先生が、それは「自分をさらさない場合、発言に責任を取る必要がないので、どうしても無責任になりがちになるからだ」と教えて、この文章を書く目的が、「自分の文章に責任を持つ姿勢を促すことだ」ということを指摘してやることも必要でしょう。
 また「便所の落書き」というのは比喩です。こういう表現は確かに効果的です。しかし、その部分が大切であればあるほど、それがどのようなことを例えているのかということをはっきりと読者に感じさせなければいけません。そうしないと、「表現は気が利いていて何か書いているような気がするのだけれど、正確にその内容を表現しようとすると、どうもよく分からない」というようなことになってしまいます。
 ですから、ここは野暮な表現になってしまうかもしれませんが、「無意味・無価値なだけではなく、はた迷惑でさえある」というような、比喩の指す内容を、もう一度はっきりさせてもよいところです。
 さて最後に、しかしこの文章にとって最も重要な問題として(9)(10)を考えてみましょう。
 最も重要な問題というのは、「この文章を筆者が書く目的は何か」ということです。何を述べ終わった段階で、「この文章を筆者が書ききった」といえるのでしょうか。
 (9)のように「そのこと」すなわち、「我が身をさらした発言以外は、便所の落書きに等しい」ということでしょうか。それとも(10)のように、「そのこと」を認識すれば、「言葉の選択の仕方は、おのずからかわってくる」ということでしょうか。筆者は(9)(10)のような書き方をしていますが、本当はそのどちらでもないはずです。
 この文章を書く目的は、先にも述べた通り、「我が身をさらした発言がなぜ大切なのか」を考えて、「自分の文章に責任を持つ姿勢を促すこと」でなければなりません。その目指す目的を筆者自身がしっかりと捉えていれば、(9)(10)の部分は、たぶんこのような展開にはなりません。
 百歩譲っても、「言葉の選択の仕方は、おのずと変わってくる」と書いて、どう変わってくるかを全く説明しないような文章は、「こんな気がするけど、核心の所は私は分からないから、考えてね」と言っているようなもので、無責任きわまります。

それではどう推敲するか

 以上分析がずいぶん長くなりましたから、書き直す場合の要点を整理しましょう。
 まず、この文章を書く目的をしっかりと把握しましょう。「自分の文章に責任を持つ姿勢が大切」ということでしたね。これを読者に納得させるために、何をどの順番で書いていけばよいかを考えていきましょう。(3)(4)(7)のあたりの関係を考えながら、整理して書きます。
 そして、文章を書く上で取り込めない、(1)(2)などは、推敲の段階で書くのを諦めてしまいます。
 さあ、以上のことをふまえて、例文を自分なりに推敲してみてください。
 必ず実際に自分で答案を作ってみてくださいよ。
 その時注意することは、表現や部品はある程度自由に変えていってかまいませんが、述べたいことの中身を変えないということです。そのことだけは注意してやってみてみましょう。
 次頁に生徒の推敲例を載せてみます。

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