体験が説得力を強める

個人の体験が説得力を強める

 作文においても、小論文においても、自分が訴えたいことを象徴的に印象づける個人的な体験を一つ入れることによって、説得力が増し、文章が生きてきます。
 この項では、生徒会に携わってでもいない限りほとんどの人が書くことがないであろう、卒業式の送辞を取り上げてみます。送辞は、作文でも小論文でもありませんが、そのどちらにおいても、この例の個人的な体験の使い方は参考になるでしょう。

   送辞
 三年生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。
 皆さんが入学されてから今日までの三年間、いろいろなことがあったと思います。
 ○○定期戦、○○デパート、まだ記憶に新しい○○祭。その間、先輩方はいつも一生懸命に全力を出して取り組み、そうしながらも、一方で私たちを助けてくださり、正しい道を教えてくださいました。
 これらの先輩方と過ごした日々を通して、私たちには今、先輩方とのたくさんの思い出があります。

 

 私が先輩方との思い出の中で、特に印象に残っているのは、生徒会での活動でした。
 昨年度十一月、新生徒会執行部が信任されたとき、三人の先輩を含めメンバーは全員が生徒会未経験者でした。そんな初めてづくしの中、先輩方はよりよい結果になるように、みんなで考えていこうと、いつもがんばっていました。私たちと同じような経験しかないはずなのに、先輩方は、私たちをリードして率先して生徒会をひっぱり、私たちのよき見本となってくださったのです。
 私たちはそんな先輩方をみて、一年の年の差をとても大きなものに感じたものです。

 部活動で、○○デパートで、○○祭で、先輩方とのそんな思い出は尽きません。我々在校生は、今、それぞれの胸の中に、先輩方との大切な思い出をかみしめています。
 昨年度生徒会では、「一所懸命」という言葉を何度も使ってきました。私はこの「一所懸命」という言葉こそ、先輩方から私たち在校生への大切なメッセージだと考えています。このたった四文字の言葉の中に、私は先輩方の愛さえ感じます。「目の前のことからこつこつと」「そして、いずれは学校全体を動かそう」というのは、先輩方の前向きな熱意であり、私たちへのメッセージでもあります。
 先輩方が今日卒業なさることは、目の前の支えを失うようで、不安でもあり、寂しくもあります。ですが、大切な先輩方の大切な門出を、私は今、心から拍手でお送りしたいと思います。
 私たちも先輩方のお姿を思い出し、先輩方の思いを受け継いで、これからの○商で精一杯の努力をしていきます。
 これから○商を巣立ち、旅立っていかれる先輩方、「一所懸命」を合い言葉として、ともに私たちとがんばってきた日々を、これから困難な社会に立ち向かっていく心の糧として、どうぞご健康で、困難にくじけることなく進んでいってください。
 先輩方がますますたくましくなられ、また私たちに会いに来てくださることを心からお待ちしております。
   平成○○年三月○日
      在校生代表    ○ ○ ○ ○

 送辞で大切なのは、同じ学校の空気を吸い、共に頑張ってきた仲間であり先輩でもある卒業生に、尊敬の気持ちを込めながらエールを贈るということです。
 在校生と卒業生との関わり方は、それこそそこにいる人の数だけ違い、そこには共通する具体的な体験などはありません。そのような人たちを代表して、「共に歩んできた共感」を表現するのはとても困難です。しかし、それをしないと、来賓の祝辞と同じで、当事者意識を感じさせない、どこかよそよそしいものになってしまいます。
 そこでどうするかですが、意外に感じるかも知れませんが、先輩とのもっとも切実だった私個人の体験を、一つだけ述べるのです。もちろんその体験は、私個人のものですから、他の人には全く関係がありません。
 しかし、その体験が私にとって切実なものであることを印象づけることができれば、「そういえば、同じような体験を自分もしたなあ」と、聞く人に自分の体験を重ね合わせて思い浮かべてもらうことができます。
 つまり、

 私はこういう切実な体験をした。
これと同じような体験をみんなしたことがあるでしょう。だから〜

というような話の持っていき方です。それが、中囲みから、それに続く「部活動で、○○デパートで、○○祭で、先輩方とのそんな思い出は尽きません。」の部分です。
 これを見れば、この個人的な体験が効いているから、「我々在校生は、今、それぞれの胸の中に、先輩方との大切な思い出をかみしめています。」が、ただ上っ面な言葉としてではなく、実感を伴って聞こえてくることが分かるでしょう。

自分でも中囲みの部分を考えてみよう

 練習問題として、中囲みの部分を空欄にして、そこに自分の体験を元にして、卒業生を泣かせるべく、一つのエピソードを入れてみましょう。
 ここでの注意点は、「もっとも切実なものを、一つだけ、なるべくだらだら長くならないように」ということです。
 この例題を練習しておけば、就職試験などで課される「私の高校生活」という題の作文にも応用が利くはずです。

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