「あなた」の呼びかけ

「あなた」という呼びかけ

 「相手の個性を消し去って、見かけの年齢だけで一まとめにする呼びかけ」だから、「おじいさん」「おばあさんと」呼びかけるべきではないという話しを、ここまでかなり長い間取り上げてきました。
 「おじいさん」「おばあさんと」と呼びかけるのは、「デパートで働いている店員や交通機関で働いている人たちに、「おねえちゃん」「おにいちゃん」と呼びかけるのと同じく失礼」なのでした。
 これをここまで推敲してきたあなたに、ここで書いたことに対する実感があるでしょうか。アルバイトでもしていなければ、「おねえちゃん」「おにいちゃん」と呼びかけられることもなく、まして高齢者でもないあなたにです。
 ある程度「相手の個性を消し去って、見かけの年齢だけで一まとめにする呼びかけ」の失礼さへの実感がなければ、いくら理屈ばかり一生懸命考えてみても、この添削はおそらく非常に難しかったのではないでしょうか。
 ここでは「相手の個性を消し去って、見かけの年齢だけで一まとめにする呼びかけ」の失礼さをもっと実感していただくために、ちょっと別の話をしておきましょう。

セールスにおける「あなた」という呼びかけ

 今や広告社会です。パソコンを開けば、あなたの元には、知っている会社からも、全く知らないところからもそれこそ山のようにメールマガジンが届けらています。
 このような個人向けの広告の世界で今や常識となっているのが、「メールに名前を入れる」「『あなた』と呼びかける」ということだそうです。
 あなたが広告のメールを受け取ったとき、「皆さん」と言われたときと、「あなた」と呼びかけられたとき、どちらが「読んでみよう」という気になるでしょうか。
 名前入りのダイレクトメールと、新聞広告のチラシのような、大勢の人を対象にしたと思わせるダイレクトメールと、どちらに親しみを感じるでしょうか。
 セールスの世界では、「『皆さん』にお勧めしているのではなく、ほかならぬ『あなた』(だけ)にお話をしているのですよ」という雰囲気をお客に感じ取らせることが成功の秘訣なのだそうです。
 結局人間はどこまで行っても、自分だけを特別な存在だと認めてほしい、そういう存在なのです。そのような我々の欲求に訴えかけようとするのが、名前入りの手紙であり、「あなた」という呼びかけなのです。
 今ここを読んでくださっている「あなた」は、ここまで「言いたいことに向かう文章」の章を読み進んできてくださった方でしょうか。
 だとすれば、あなたがここまで途中やめにせずに読んでくださったことに、私がこの章を書くときに使ってきた「あなた」という呼びかけが少しは功を奏したかもしれません。
 「『あなた』と呼びかける」というセールス広告の秘訣を知って、この章を書くときに私も応用してみました。
 もしあなたが、この「『あなた』と呼びかける効用」を実感できたとしたら、高齢者が名前を呼ばれるときと、「おじいちゃん」と呼ばれるときと、どちらが自分の存在感を自覚できるかは想像できるでしょう。
 この例題に書かれたことは、非常にあっさりと書かれてはいますが、突き詰めてみれば、まだまだ深くつっこんで考えることができる問題なのです。

タイトルとURLをコピーしました