送辞解答例

送辞解答例

とりあえず解答例を見比べてみよう

 前項の送辞の体験部分を埋める例題の解答例を2つ並べてみます。読み比べてみてください。

解答例1
 私が先輩方との思い出の中で一番印象に残っているのは、体育祭です。
 応援の係になった私は、振り付けがなかなか覚えられず、人より後れを取ってしまいました。そんな私に先輩方は付きっきりで振り付けを教えてくださいました。周りに迷惑をかけてしまい、応援の練習が辛くなっていた私に、「大丈夫だよ。ゆっくりやろう。」と声をかけ、私が分かるようにと、何度も根気よく丁寧に説明してくださったのです。
 応援の衣装を作ったり、音楽の編集をしたりと忙しいはずなのに、先輩は嫌な顔一つ見せませんでした。
 そんな先輩方だからこそ、「大丈夫。」という言葉に頼もしさを感じたのです。

 

解答例2
 私が先輩方との思い出の中で先輩方のすごさを感じたのは、体育祭の応援練習でした。
 応援の練習の時に、分からないことがあると先輩方はとても優しく、丁寧に指導をしてくださいました。声出しの練習をしている時には、先輩方の厳しい指導を受けました。でも、その厳しさの中に先輩方の熱き思いがあることを身をもって実感しました。
 そして、大勢いる仲間をまとめ上げたその姿に、すごさを感じたものです。

 細かい表現はさておき、前の例文の方が、先輩の懸命さや熱心さの具体的な姿を描いている分、後ろの解答例より、すんなりとそのイメージが伝わることが分かるでしょうか。いくら「優しい」「厳しさの中に先輩方の熱き思いがある」と抽象的な言葉を重ねても、その姿をイメージさせる具体的な内容の描写がなければ、読者はすんなりと、それを受け入れてはくれません。
 この例題では、このような具体例の効用や使い方を実感してください。
 前の作文のページで「作文の場合には、何か主張したいことの裏付けとなる具体的なエピソードや考え方などが絶対に必要だ」と書いたのは、このようなことなのです。

他の解答例でもう一度確認しておこう
解答例3
 私が先輩方との思い出の中で特に印象に残っているのは、部活動です。
 先輩方は、部員みんながよい環境で練習できるようにと、部長を中心として部員を引っ張ってくださいました。練習では、きつい練習でも、率先して練習して、先輩方もきつくて辛いはずなのに、私たちに声をかけあって、励ましてくださいました。
 その結果、私たちは、先輩方の後を追いかけて、ここまで走ってくることができました。
 私たちはそんな先輩方の姿を見て、とても頼もしく感じました。
解答例4
 私は野球部に入っています。家族より長い時間一緒に過ごした部活動で、私には今でも忘れられない光景が一つあります。
 夏、本当にツラい時期での練習に、みんなふらふらでした。そんなとき、一人の先輩が個人ノック中に倒れてしまいました。先輩方はすかさず駆け寄って、「絶対に負けるな」と言って腹の底から声を張り上げて応援したのです。そして、ノックが終わった後、先輩方が寄り添い、抱き合っている姿からは、本当の絆というものを感じることができました。

 今度は、抽象的で具体的な姿を描かない文章と、イメージを読者にきちんと説明している文章とを逆に並べてみました。これらを読み比べれば、読者に具体的な例を示して、イメージを自分で持ってもらうことがどういうことなのか、そしてそれが大切な理由も一目瞭然でしょう。

例を見るとどうしても例に引きずられすぎる

 例を見て、本質的なところだけを感じ取ってもらえればよいのですが、作文・小論文を練習しようかという人は、例文を見るとどうしてもその例に引きずられてしまって、自由な発想で、自分で自由に文章を構成するということができにくくなってしまいます。
 上の例文でも、最初の問題の所に載っている文章に引きずられて、もっと書き方がいくらでもあるはずなのに、もとの例文をそのまままねている部分がいくらか見受けられます。
 例えば、「私が先輩方との思い出の中で一番印象に残っているのは〜」などというのは、紋切り型です。この空欄にこのような内容を書けばよいだけであって、必ずしもこういう書き出しで始める必要はありません。この場合むしろ、最後の解答例のように「私は野球部に入っています。」とすぐに入った方が、すっきりするのではないでしょうか。
 送辞など、声に出して読む文章は、目で文章を追うだけのものほど、つながりをすべて文章でつないでいかなくても、話の内容が変わることを、段落と段落の間をあけて読むことで分からせることができます。そのような音読する文章特有の特徴を考えれば、「私が先輩方との思い出の中で一番印象に残っているのは〜」などというつなぎの文章を入れない方が、かえってインパクトが強くなることがあるのも理解できるでしょう。
 また、「そんな先輩方を見て、〜」も紋切り型です。例題の囲みのすぐ後の、「部活動で、○○デパートで、○○祭で、先輩方とのそんな思い出は尽きません。我々在校生は、今、それぞれの胸の中に、先輩方との大切な思い出をかみしめています。」の部分を含めて考え直せば、さらにもっと色々な書き方を工夫できるはずです。

私の本に例文をあまり入れない理由

 上の説明を読んでいただければ、作文を説明する本でありながら、私が例文をなるべく入れようとしない理由を、分かっていただけたでしょうか。(『ねこ』P75
 例えば、推敲の例として、『ねこの小論文・作文講義』では、「少子高齢化」の問題を取り上げました(『ねこ』P33〜)。なるべく問題意識を深めないように注意して作った例文であるとは いえ、文章の筋を通すやりかたの説明ですから、普通の高校生が思いつく以上には、きちんと筋を通してあります。
 このような例を読んでしまって、なおかつ自分で筋を通して自由に文章を書くのは、実はとても困難なのです。ですから、この例文を読んでしまった人は、少なくとも文章を書く最初の課題としては、「少子高齢化」を避けるようにする方が、おそらくノウハウの習得には早道でしょう。

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