原稿用紙の使い方
行末禁則処理について
原稿用紙の使い方の概略は、『作文超入門』に書いた通りです。
禁則処理
禁則処理には、行頭に終わりのカッコの類、例えば 」 ) などを持ってこないで、前の行末にぶら下げて書く行頭禁則処理と、行末に始まりのカッコの類、例えば 「 ( を書かないようにする行末禁則処理とがあります。
ワープロで書く場合や、本などでは、ジャスティフィケーションによって字間を調整するなどして、そのどちらにも配慮する処理をすることが多いです。
原稿用紙を使う場合、行頭に終わりのカッコの類を持ってこないで、前の行にぶら下げて書く行頭禁則処理は、学校現場では絶対に守るべき原則として教えられています。
ところが、行末禁則処理については、高校の教科書や参考書の類を見ても、書き方に統一の認識があるわけではないようです。
この頁では、作文用紙に書く場合の行末禁則処理について、どのような考え方があるのかを見ておきたいと思います。
行末禁則処理に対する立場
行末禁則処理をする立場には、
行末禁則処理をする立場 | ||
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東京書籍 新編現代の国語(令和4年以降採用)P197 | 括弧の始め(「『など)が行の末尾にくる場合は、括弧と文字を一ますにまとめて書くか、そのますを空けて次の行の冒頭に書く。 | |
三省堂 明快国語総合(平成23年度)P188 | 始めのかっこ(「『〈など)が行の末尾にくる場合は、かっこと次の文字を同じマスに書くか、そのマスをはあけて、次の行の冒頭に書く。 | |
大修館書店 国語表現(平成30年度新刊教科書)裏表紙裏 | 「『(〈 などが行の最後にくる場合は、そこを空けて、次の行の冒頭に書く。 |
というようなものがあります。
この会社の教科書は、禁則処理に関しての記述は一貫してはいないようです。
面白いところでは、
行末禁則処理しないように書く立場 | ||
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明治書院 精選現代の国語(令和4年度新課程)P224 | ( や 「 などのような括弧やかぎは、行の最後に書かないように工夫する。 |
というのがあります。
これは、行の末尾に始まりの括弧の類が来るのは不細工だから、それを避けるようにしようという意識の現れでしょう。
しかし、ワープロが普及した現在では、原稿用紙に書いたものがそのまま完成原稿として流通していくということはほとんど考えられません。それなのに、たかが原稿用紙に清書を書く段階で、行末に来る始まりの括弧を避けるために、文章そのものを修正しなさいというのは、いささか極論ではないでしょうか。
行末禁則処理しない立場 | ||
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上記以外の教科書会社? | 行末に始まりの括弧が来ても気にしないでそのままそれを記入する。 |
この行末禁則処理しない立場を教科書会社が取っているかどうかというのは、教科書の記述からはほとんど判断ができません。なぜかというと、この立場を取るなら、行末に始まりの括弧が来ても気にしないでそのままそれを記入するはずなのですが、そのような注記をあえてしたものはなく、記述例を載せている教科書もないからです。
おそらく、文末に始まりの括弧を書くのは不細工だという意識が働くために、そのような例文を載せないからだと思われます。
しかし、「行末に来た始まりの括弧をどうするべきか」という問題意識がある教科書会社が、行末禁則処理をしない立場を取るのなら、そのような例文をあえて掲載してほしかったところです。
令和3年、試しに京都書房の教科書編集部に電話をしてみたところ、このような「行末禁則処理をどうするべきか」という問題が存在することへの問題意識さえありませんでした。それを意識しないということは、行末に始まりの括弧が来た場合でも、それを気にしないでそのまま記入するしかないはずです。
作文添削の現場
作文添削の場合は、行末禁則処理をしてあっても、行末にそのまま始まりの括弧の類を記入してあっても、あえてそこには触れずにスルーするという立場を取っているようです。これも令和3年に学研とベネッセに電話で確認を取りました。
ねこの立場と妥協策
以上のように、高校の教科書においてでさえ、原稿用紙を書く場合、行末禁則処理をするかしないかという立場は一致してはいません。
行頭禁則の場合は、終わりの括弧を最後のマス目に文字と一緒に書いても、はみ出してぶら下げても、さほどの異様さはありません。しかし、行末に来た始まりの括弧と一緒に次に来る文字も一マスに書き入れるというのはどうでしょうか。見た目が異様ですし、とても詰まった感じがして違和感があります。
ですから、行末禁則処理をするのなら、最後のマス目を一文字分空けて次の行のはじめに始まりの括弧を書くのでしょうが、その場合、最後にできた一文字分の無意味な空白がやはり気になります。
それにこのようなあまり意味のない禁則処理をすればするほど、ワープロなどではやり方次第でデータが汚くなくなる可能性も高くなり、他にデータを移す時の障害になりかねません。
よって、ねこは、原稿用紙を書く場合には、行末禁則処理などは一切せずに、行末に始まりの括弧が来ても、そのまま記入する方がよいという立場です。
しかし、上述の通り、教科書会社はそれほどない中、三社までもが行末禁則処理を支持しているというのも気になるところです。
このような世間では常識にまで広まってはいないようなことでも、一旦教科書に載せられてしまうと、行末禁則処理をしていない答案に対して、偏狭な採点者(入試採点担当の先生などの)が、「減点する」といつ言い出すか知れたものではありません。
ですから、不幸にしてそのような偏狭な採点者に当たっても、絶対に減点されないようにするためには、多少不本意でも、行末禁則処理をして、最後は一マス空けて、次の行に括弧から始めるというのが、入試作文の場合には、自分の身を守るための妥協策なのだと思います。