要約もイイタイコト必須

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要約もイイタイコトが必須

 前ページで、「ノートルダム清心女子大学 2017年度 小論文 文(日本語日本文)学部 問題」の問三、要約問題をやっていただくように宿題を出しました。あなたの解答はどうなったでしょうか。
 この問題を解く大前提は、要約であろうと、現代文問題の解答であろうと、1つの文章である以上、元の文章に一切依存することなく、その文章を読んだだけで、内容がきちんと把握できるものを書かなければならないということです。
 「要約など、元の文章の主だったところを書き抜いていけばよい」というような発想をしていると、ろくな要約にはなりません。

赤本の解答

 チャレンジという言葉には、①野心的な意味、から、②生きる意味そのものに関わるスピリチュアルなもの、③意欲的な姿勢、と多様な意味がある。いまどきの若者はさりげなくチャレンジしつつも立派な結果を出し、かつスピリ ニチュアルなものには価値を置きつつ距離を取るクールさがある。しかし現在、自然体でチャレンジしていくタイプと、チャレンジを自分と関連づけて理解することすらできないタイプの両極端に分極しているようだ。(二百字以内) 

赤本の解答例に何点付ける?

 赤本の解答例は、生徒解答例の3・4とほぼ同じです。内容的に全く変わっていないので、ここでは3を掲載しておきます。(ディスプレイで見にくい場合は、PDFをご覧ください

   

 1文目も問題があるのですが、それは最後に述べるとして、2文目と3文目との関係です。
 さりげなくチャレンジしつつも立派な結果を出すいまどきの若者」と、「自然体でチャレンジしていくタイプ」とは、どういう関係でしょうか。全く同じもののはずなのに、それらが全く関連付けて書かれてはいないため、この関係が全く不明です。
 また、この文章は、この要約の最後の様に、「2つのタイプに分かれている」ことが言いたいのでしょうか。本当はもっと、さらに突っ込んだことを言おうとはしていないでしょうか。
 というようなことを生徒に問いかけてできたのが、生徒解答例5です。

  これで大分よくなりました。しかし、「後者のような若者はうまく生きていけない」が、この筆者の本当に言いたかったことでしょうか。それを考えて出てきたのが、生徒解答例6です。

 これで、後半部分の要旨はバッチリになりました。
 ここまでの所では、1文目には文章がつながっていかない違和感を持ちながらも、「内容があまりに膨大であるため、うまく要約ができないので、赤本の解答例のように、3つのタイプの分類だけを記述しておくぐらいしか手の施しようがない」と、私が指導していたので、生徒解答例で、3以降ずっと1文目がこの記述になっていました。
 しかし後々、もう一度よく考えてみると、このチャレンジの3タイプの分類は、「以前なら世間の共通認識として『チャレンジこそ善』という空気があったのが、今は変容している」ということを言おうとしていたようです。
 ですから、この文章の要約の模範解答を作るなら、1文目は、チャレンジの3タイプの分類を述べるのではなくて、「以前なら世間の共通認識として『チャレンジこそ善』という空気があったけれど」というような言葉が入るべきでした。

 なお、余談になりますが、生徒解答例6のように、1字字数オーバーするのを修正しなければならない場合には、「その世界」を、「そこ」と修正すれば対応できます。

 作り直し模範解答

 以前なら世間の共通認識として「チャレンジこそ善」という空気があったが、いまどきの若者は自然にチャレンジを試みるタイプとチャレンジを自分と関連づけて理解できないタイプに分極しつつある。現在は前者のような精神の持ち主でなければ生きにくい世界であるため、その世界(そこ)でうまく生きていけない後者のような若者にチャレンジの喜びや充実感を教え込む必要がある。(171字)

 生徒解答の中にすでに記述があった

 実は、この1文目の最初の記述は、生徒解答例1の中に既に書いてあったものでした。指導する私より、生徒の方がこの部分ではエッセンスを直感的につかんでいたということでした。
 すばらしい! 自分は情けない。

指導の過程

 生徒解答例1では、筆者が書いている内容をきちんと把握しているようには思えなかったので、字数制限を気にしなくていいから、まとめを書いてごらんと言って出てきたのが、生徒解答例2です。

 この要約が出てくるのは、ある意味仕方がないことです。それは、筆者が書いている内容を、その順番通りにまとめていくとこのようになってしまうからです。
 しかし、このようにまとめてみても、文章に書かれている意味の把握は全く出来てはいません。「ここに書かれている要素同意の関係をもうちょっと考えてみましょう」と提案して出てきたのが、生徒解答例3です。
 ここからの指導の過程は、上で述べたとおりです。

結論に向かって終始一貫していない文章を要約させるのはナンセンス

 この要約問題の難しさが分かったでしょうか。それは内容の難しさではなくて、結論に向かって終始一貫した流れになってはいない文章を要約させられる難しさです。この難しさは、イイタイコトをまとめきれずに、いろいろな所でいろいろな思考の断片を綴った文章を、添削指導していかなければならない添削の難しさと同質のものです。
 生徒は、文章に現れる思考の断片の論理関係を自分の頭で再構成して、文章を作っていかなければなりません。そのような、赤本の解答者でもできもしない作業を、受験生に強いる入試問題というのはいかがなものでしょうか。
 この大学の先生が、どういう文章観なのか、どういう採点基準で採点をしているのか、ぜひともその内容を教えてもらいたいものです。

元の文章の完成度は?

 おそらく、この問題文は、長い文章(本)の一節でしょうから、この引用部分だけを見て、文章の完成度をうんぬんするのは、筆者にちょっとかわいそうかもしれません。しかしそれにしても、最終要約文のようなことを、筆者がここで言いたかったのなら、もうちょっといくらでも書き様があったように思われてなりません。

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