資料を読み解く2(確かに~)

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資料を読み解く2(「確かに~しかし~」を使って)

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 前頁で取り上げた大修館の国語表現 改訂版(国表307 平成29年文部科学省検定済み)『統計資料を読み取って書く P42~』(リンクで教科書本文のPDF表示)のP44下「資料の分析から構成メモヘ」に、「統計資料をふまえて自分の主張をより説得力をもたせて展開する場合には、「レッスン2」で学習した「反論を想定して書く」パターンを用いることも考えられる。」という指摘があるので、これについて考えておきましょう。
 この後に続く下のような説明〈構成メモ例B〉は様々な点で問題を含んでいます。

  1. 「企業の人事担当者」の考えをまとめ、それに対して自分は賛成か反対かを示す。
  2. 賛成、あるいは反対の理由を説明する。
  3. (「確かに」で始めて)自分の意見とは異なる立場の考えにも理解を示しておく。
  4. (「しかし」で始めて)最も説得力のある理由を述べる。
  5. 1の内容を繰り返し、締めくくる。

     これまでの頁で説明したことは、以下の通りです。
     4.の所で、「自分の意見とは異なる立場の考えに対する反論を試みながら」という指摘がないのは、致命的な大問題です。
     2と4とで、意見をどう述べ分けるか、更に「最も説得力がある意見をなぜ後に書かなければならないのか

    「確かに~しかし~」で賛否両論を展開できる場合

     2つの主張がある場合に、そのどちらの立場をとっても両方とも、「確かに~しかし~」で文章展開ができるのは、その2つの主張がどちらもそれなりに重み、重要性が同じ程度の場合だけです。片一方の主張が、もう一方の主張よりも重み、重要性が劣る場合には、立場を引っくり返しても同じ深さで議論ができるかといったら、それは無理な相談です。
     また、片方がもう一方よりも浅い考えでしかない場合や、片一方の主張が、もう一方の主張を前提として、更にその上の主張として成り立っている場合などにも、同様に、片一方の立場からでしか、「確かに~しかし~」は使えません。
     例えば、ここでの例文の場合、企業の採用担当者の意見と、学生の意見とがあったとして、就職させてもらう立場の人間の考え方に賛同して、企業の採用担当者の意見にケチを付けても、立場が優位なのは当然採用担当者の方なのですから、文句を言っても意味がありません。
     別の方面から見ても、前頁で説明したように、企業の採用担当者の意見は、学生が心掛けていることを前提として、学力や専門知識だけではなく、もっと人間力も身に付けて来てほしいといっているわけですから、それに異を唱えて、「学力だけで十分でしょう」と反論するのにも無理があります。
     ですから、この例題の文章を「確かに~しかし~」を使って書き直すといっても、上の2つの意味において、学生の主張を取り上げて、企業の採用担当者の意見を否定しようとするとかなりな無理が生じます。
     その意味で、「2.賛成、あるいは反対の理由を説明する。」というのは、「反対をできるものならやってごらんよ」というようなところでしょうか。
     ちなみに言うと、「迷路と劇と文化祭のクラス出し物としてふさわしいのはどちらか」というような問題でも、迷路の方がどう考えても安易な発想なのですから、そちらの立場をとってしまうと、劇を取るのと同等な深い議論などできようはずがありません

    なぜ最初に「企業の採用担当者」の考えだけを取り上げるのか

     上の〈構成メモ例B〉で、最初になぜ、「企業の人事担当者」の考えだけをまとめなければならないのでしょうか。まともな判断をするなら、グラフは、学生と企業の採用担当者の考えと両方を示しているわけですから、「資料の正確な読み取りをまず優先する」という立場から言えば、学生と企業の採用担当者、両方の考えをまず紹介するべきところなのではないでしょうか。
     もし、「企業の人事担当者」の考えだけをまとめることが妥当であるのならば、本当に賛否両論で展開できる素材であるのなら、学生の立場だけを最初にまず取り上げても構わないはずです。それなのに、あえて「1.『企業の人事担当者』の考えをまとめる」と書かなければならないのはなぜなのでしょうか。
     それは、本当は、「企業の人事担当者」の考えに賛同する立場からでしか、まともな文章を書けないからにほかなりません。
     以下、もう一度、教科書の問題と小論文例を掲載しておきます。 

    教科書の問題と小論文例(リンクで縦書きPDF表示)

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    社会で必要とされる力とは

     課題の資料の青い棒は、学生が「自分に不足していると思う要素」を示しているが、それは「社会に出て必要とされるレベルと比較して不足している」という意味であろう。このグラフを読み取ると、学生と企業の人事担当者との間で大きな意識の差があることがわかる。
     社会に出て必要とされる能力に比べて不足している要素として、学生は、「語学力」「業界に関する専門知識」「簿記」「パソコンスキル」などをあげている。これらの項目は、専門的な知識や技術に関する内容であり、学生はそのような力が自分に足りないと思っているのである。
     一方、企業の人事担当者が多くあげているのは、「主体性」「粘り強さ」「コミュニケーションカ」「一般常識」などだ。これらの項目は、仕事をやり遂げる精神的な面や、他者と協調、協力しながら仕事をしていくための力であり、これが学生に不足していると人事担当者は思っているのである。
     考えてみれば、企業全体が必要とする力に比べれば、どんなに優秀な社員であっても、一個人の専門知識やスキルなどはたかが知れている。企業として必要なものは、一個人の知識やスキルではなく、チームの全員が各自の能力を大いに発揮し、それを結集して事に当たるチームカであり、そのチームカをさらに高めようとする強い意思なのだ。社会に出て必要とされる能力に比べて学生に不足していると企業の人事担当者が判断した要素が「コミュニケーションカ」、「主体性」、「粘り強さ」などであることから、そのような企業の考えを読み取ることができる。

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     課題のグラフは、学生と企業の人事担当者の意識の差を明確に表しており、非常に重要な示唆を与えてくれるものである。これから社会に出ていく私は、このグラフを参考にして、社会ではどのような力が必要なのかをしっかり認識し、普段からそのような力を身につけるよう、努力したいと考えている。

     ということで、「確かに~」を使った小論文例を書いてみましょう。

    「確かに~しかし~」使って書き換えよう 添削例1(リンクで縦書きPDF表示)

    社会で必要とされる力とは

     このグラフを読み取ると、学生と企業の人事担当者との間で大きな意識の差があることがわかる。
     課題の資料で、学生が「自分に不足していると思う要素」とは、「社会に出て必要とされるレベルと比較して自分に不足している」と学生が考えている要素なのだと思われる。この要素として、学生は、「語学力」「業界に関する専門知識」「簿記」「パソコンスキル」など、専門的な知識や技術に関する内容をあげている。
     一方、企業の人事担当者が多くあげているのは、「主体性」「粘り強さ」「コミュニケーションカ」「一般常識」など、仕事をやり遂げる精神的な面や、他者と協調、協力しながら仕事をしていくための力だ。
     確かに、学生が知識を重視しがちなのも無理はない。それは、これらの項目が、学生が日頃からテストという形で点数化されることに馴染んでいるものであり、しかも、入社試験などでも実際問われる能力でもあるからだ。一方、企業の人事担当者が重視する項目は、学校でも重視されないわけではないが、数値化して量られるわけではないので、学生はどうしても後回しにしがちになる。
     しかし、考えてみれば、どんなに優秀な社員がいたとしても、チームの全員が各自の能力を大いに発揮し、それを結集して事に当たるチームカや、そのチームカをさらに高めようとする強い意思がなければ企業の成長は望めない。そのような企業の考えをこの回答から読み取ることができるのではないか。
     学生と企業の人事担当者とのこのような意識の違いは、非常に重要な示唆を我々に与えてくれる。これから社会に出ていく私達は、社会ではどのような力が必要なのかをしっかり認識し、「基礎学力」だけではなく、「人間力」「コミュニケーション力」も磨いていけるよう普段から努力していかなければならない。

    「確かに~しかし~」を使ったからといってさほど説得力が増すわけではない

     上の「確かに~しかし~」を使った添削例と、前ページのそれを使わない添削例とを見比べても、同じ内容を言っているので、説得力が増したとも思えません。それは、前ページの添削例が「確かに~しかし~」を使わなくても、2つの主張を検討して、それぞれをきちんと評価した上で論じているからです。
     逆に、たとえ「確かに~しかし~」を使ったとしても、2つの主張を検討して、それぞれをきちんと評価した上で論じなければ、樋口流の相手の意見を認めたふりをして、実は一方的に自説を主張しまくるだけの説得力のかけらもない文章になってしまいます。
     そういう意味で、「自分の主張をより説得力をもたせて展開する場合には、『レッスン2』で学習した『反論を想定して書く』パターンを用いる」ことが有効だという上記〈構成メモ例B〉の説明は、眉に唾をつけて読み流しておくほうがよいでしょう。
     この添削例では、「確かに~しかし~」を使うために、資料の読み取り部分と、分析の部分とを敢えて分けて記述する必要が出てきました。そのため、「確かに~しかし~」を使うとどうしても40字(原稿用紙2行)分文字数が増えてしまいます。上の添削例では、それを無理やり「この」の所で縮めて800字に収めてあります。
     しかし、そこまで「確かに~しかし~」にこだわらなくても、この文章の場合は、「確かに~しかし~」を使わない先の添削例で、しっかりと言いたいことが主張できていると私は思います。
     肝心なのは、「確かに~しかし~」を使うかどうかではなくて、「確かに~しかし~」を使う場合には絶対に必要な、「2つの主張を天秤にかけて、相手の主張の根拠もきちんと踏まえながら、それでも自説の有利な点をきちんと説明して主張しよう」という態度の有無で、説得力の有る無しが決まってくるということです。
     このような「『イイタイコト』をきちんと捉えて、言うための基本的な発想法」を育てないで、形ばかりにこだわっているようでは、ろくなことにはなりません。

    この教科書の編者にはこの問題を「確かに~」では文章化できない

     上の添削例で、元の文章に対して私が付け加えているところは、学生の見解がなぜその様になってしまうのかについて分析して、学生が企業の採用担当者のような意見を持てないのも無理はないという理解を示すマーカー部分です。
     元の文章を作った作者には、「学生たちはなぜ学力を重要視するのか」に対する理解もなく、それに対して、どういう視点から切り返していくかという見通しもないから先の小論文例のような文章になっているのですから、このような視点を持たない筆者には、「確かに~しかし~」を有効に使ってこの問題を論じきる文章など絶対に書けません。書けるはずがありません。
     もし書くとすれば、

     学生は確かに学力が必要だと思っている。
     しかし、企業の採用担当者が言う通り、企業では人間力・コミュニケーション力が求められている。
     だから、人間力・コミュニケーション力が絶対に必要だと私は思う。

    の様な、樋口氏ばりの文章が出てくるのが関の山ではないでしょうか。当然そんな文章は全くのナンセンスです。説得力などこれっぽっちも期待できるはずがありません。

    指導資料による「確かに~」を使っての書き換え(リンクで縦書きPDF表示)

     ここまで書いた所で、教科書編者によるこの問題の「確かに~」を使った作文例を指導資料で見つけたので、一応これを見ておきましょう。

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    社会で必要とされる力とは
    (指導資料による「確かに~」を使った作文例)

    課題資料を見ると、学生が「自分に不足していると思う要素」に、「語学力」「業界に関する専門知識」「簿記」など、専門的な知識や技術に関するものをあげているのに対し、企業の人事担当者が「学生に不足していると思う要素」として多くあげているのは、「主体性」「粘り強さ」「コミュニケーションカ」など、仕事を積極的にやり抜くカや他者と協力しながら仕事をしていくためのカであり、そのようなカを企業が学生に強く求めていることがわかる。私は、この企業の考え方に賛同する。
    言うまでもなく、企業というものは、組織として業績を挙げなければならない存在だ。ゆえに、仕事に主体的に、かつ粘り強く取り組む全員の姿勢と、その全員のカを一つにまとめるためのチームワークこそが、企業には何よりも大切なのである。
    確かに、実際に仕事をするのは一人一人の人間なのだから、一人一人が専門的な知識を身につけ、スキルを高めていくことが大切だ、という考え方もあるだろう。学生が、社会で必要な専門的な知識やスキルが自分には不足している、と思うのも理解できる。
    しかし、企業全体が必要とするカに比べれば、どんなに優秀な社員であっても、一個人の知識やスキルなどはたかが知れている。企業として最も必要なものは、一個人の知識やスキルではなく、チームの全員が各自の能力を大いに発揮し、それを結集して事に当たるチームカなのだ。そのことを、企業の人事担当者の回答がしっかりと示している。
    社会に出て必要とされる能力に比べて学生に不足しているのは、仕事を積極的にやり抜くカや他者と協力しながら仕事をしていくためのカである。この企業の人事担当者の考えに私は賛同する。そして、これから社会に出て行く私は、社会で必要とされるカは何かをしっかリ認識し、普段からそのようなカを身につけるよう、努力したいと考えている。

    『確かに~しかし~」の使い方は至極まともだが

     この作文例では、マーカー部分「実際に仕事をするのは一人一人の人間なのだから」のような学生側の主張の根拠がきちんと書かれていて、「しかし~」以降でそれを全否定しているので、『確かに~しかし~」の使い方としては至極まともです。
     おかげで、教科書に載っている「確かに~」を使わない文章よりも、遥かによいです。
     ですが、書かれている内容については、「それって本気でそう思っているの?」というような主張になってしまっています。この事については前ページで触れたので、ここでは詳しい説明は省きます。
     このような否定の仕方では、「本当は社会で全然必要とされていず、習得しても全く意味がない学力を、学生が愚かだから思い違いをして、追い求める努力をしている」と言っているのと同じことです。
     いくら馬鹿な学生でも、いや馬鹿な学生ならなおのこと、努力するメリットを見いだせないものに対しての努力など、勘違いしてもするわけがないでしょう。

    資料の分析の仕方もこちらはまとも

     この例文では、学生と企業の採用担当者とどちらの回答も取り上げて、その意味を最初に説明しています。〈構成メモ例B〉①の様に、企業の採用担当者の方だけの回答を紹介するようなことをしていない点で、分析の仕方も〈構成メモ例B〉に比べて、こちらは至極まともです。

    段落構成の仕方はやはりおかしい

     〈構成メモ例B〉の②と④の構成の考え方がおかしいので、それを反映させたこの作文例も段落構成の仕方がおかしくなっています。①に当たる部分のすぐ次に、③を持ってきて、自分の主張に当たる②と④とをまとめてしまい、「しかし~」で始めると、こちらもスッキリとした段落構成になります。

    同じことを言っている冗長な表現も少ないが

     この小論文例は、同じことを何度も繰り返す冗長な表現が、教科書の小論文例よりも随分と少なくなってスッキリとしています。恐らく、「確かに~しかし~」を使うために、表現が増えてしまうところを、同じ字数で抑えるために、どうしても表現のスリム化を図る必要があったのではないでしょうか。
     それでも、最終段落のマーカー部分「社会に出て必要とされる能力に比べて~。この企業の人事担当者の考えに私は賛同する。」などは、本当は全く不要です。
     最後のまとめとして主張を繰り返すことは一般になされることですが、複雑な主張を簡単にまとめてもう一度述べるのならいざしらず、このような単純な主張を何度も何度も繰り返すのはくどすぎて、全く意味がありません。

    社会で必要とされる力とは
    (指導資料による「確かに~」を使った作文例の添削例)

    課題資料を見ると、学生が「自分に不足していると思う要素」に、「語学力」「業界に関する専門知識」「簿記」など、専門的な知識や技術に関するものをあげているのに対し、企業の人事担当者が「学生に不足していると思う要素」として多くあげているのは、「主体性」「粘り強さ」「コミュニケーションカ」など、仕事を積極的にやり抜くカや他者と協力しながら仕事をしていくためのカであり、そのようなカを企業が学生に強く求めていることがわかる。私は、この企業の考え方に賛同する。
    確かに、実際に仕事をするのは一人一人の人間なのだから、一人一人が専門的な知識を身につけ、スキルを高めていくことが大切だ、という考え方もあるだろう。学生が、社会で必要な専門的な知識やスキルが自分には不足している、と思うのも理解できる。
    しかし、言うまでもなく、企業というものは、組織として業績を挙げなければならない存在だ。ゆえに、仕事に主体的に、かつ粘り強く取り組む全員の姿勢と、その全員のカを一つにまとめるためのチームワークこそが、企業には何よりも大切なのである。
    企業全体が必要とするカに比べれば、どんなに優秀な社員であっても、一個人の知識やスキルなどはたかが知れている。企業として最も必要なものは、一個人の知識やスキルではなく、チームの全員が各自の能力を大いに発揮し、それを結集して事に当たるチームカなのだ。そのことを、企業の人事担当者の回答がしっかりと示している。
    これから社会に出て行く私は、社会で必要とされるカは何かをしっかリ認識し、普段からそのようなカを身につけるよう、努力したいと考えている。

     言っている内容は相変わらず的外れですが、これで文脈上は随分とスッキリした流れになっているはずです。私の作った小論文例にかなり近づいてきました。
     本当は、マーカー部分もなくても一向に構いません。この文章の場合は、「確かに~」と言い出した時点で、「学生の意見には筆者は反対なのだな」というのがすぐに分かるからです。
     自分の主張を書かずに、すぐに「確かに~」と始めるのは、ちょっとイレギュラーではありますが。

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