山月記

山月記—「人間」であることを求め、破れた李徴

1.はじめに

 「山月記」は従来さまざまに論じられてきたが、例えば  

  • 不条理な運命
  • 「尊大な羞恥心」(「臆病な自尊心」)を自分の心の中で制御できなかったこと
  • 妻子に対する愛情の欠如

といった項目をあまり関連づけずに本文の中から取り出し、それらを作者「中島敦」と結びつけて論評するというスタイルが多かったように思う。筆者は、「初めに作品ありき」を重視する者として、まず山月記の主人公である李徴という人物を検討してみたいと思う。その検討の中で、山月記が作者の感想の寄せ集めではなく、李徴という一人の人物を如何に統一的に描き出しているかということを検証したい。
 加えて、従来かなり曖昧な形で取り上げられることの多かった、「臆病な自尊心」「尊大な羞恥心」についても、考察を加える。

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