差別意識の構造
舞姫—常識と実感との乖離
3.差別意識の構造
「『身分を超え、人種を超えた愛の至上』を読者に訴える」と言いながら、この物語に描かれている差別意識は、本当はそれほど単純ではない。
ロシアから帰ってきた豊太郎に抱きつくエリスを見て、荷物を持ってきた御丁は、何事かを豊太郎に聞こえない声でつぶやく。これは明らかに、「いくら舞姫のような身とはいえ、いくら金持ちとはいえ、東洋人ごときにそこまで媚びるなよ」というような内容であったに違いない。
白人は、日本を代表してくる豊太郎たちに対して露骨には差別意識を表さなくても、やはり東洋人に対して差別観を持ち、日本人は、白人に対してコンプレックスを抱く一方、同じ東洋人や黒人に対しては差別意識を持つ。このような構図が、『舞姫』にはきちんと描かれている。
たとえばエリスが白人ではなく、黒人だったら、それを読む我々は、果たして今の『舞姫』を読む我々のように、無邪気に「身分を超え、人種を超えた愛」をやはり感じるだろうか。
我々日本人は、普通自分が差別する存在であると同時に、差別される存在でもあるということをあまり意識しようとはしない。だが、「エリス」に我々が寄せる強い同情には、このような日本人の抱く白人コンプレックスも味方しているはずである。