未整理の思考

未整理の思考
次の例文のような内容を、自分ならどう書くか考えよう。
今の世の中は、医学の進歩により昔より老人が長生きするようになったり、現代の女性が男性のように一人で仕事をするようになりなかなか結婚もしなくなり、結婚しても昔より子どもを産まなくなり、高齢化や少子化などになっている。
このようなことにより老人が増えすぎて老人ホームが足らなくなったりそれにより老人の介護をしなくてはならなくなりそれによってあまり仕事ができなくなる。他に老人が長生きして増えることによって若者たちが多く税金を払わなくてはいけなかったり、どんどん人口が増えていき、それにより町がにぎやかにはなるが、食料がなくなってしまったり、住むところがなくなってしまうという問題が起こってしまう。
このような問題を解決するためには、もっと老人ホームを作ったり、もっと子どもを生むべきだ。だがそうしてしまっても人口が増えて食料や住むところがなくなるが、食料は今どんどん発達しているクローン技術により食料を増やして対策はできるが、住むところの問題が解決できない。森林を切り倒して住むところをつくることができるが、緑がなくなってしまっては、生きることができなくなるので、老人ホームを作ることなどの対策ができない。このように高齢化や少子化などの問題を解決しようとしても次々と新しい問題が出てくる。
しかし、二十一世紀を平和にするためにボランティアなどをしてこの問題を解決するため私たちも努力するべきだ。
これを読むと、一つの言葉から次々に発想が移っていって、「結局何が言いたいのか。」という印象を抱くだろう。
しかし我々の頭の中というのは、ここまででなくても、誰であれ、このように似通った関係がありそうなことについて、発想が次々と数珠(じゅず)つなぎになっているものなのである。そのような思考を、一つ一つの関係を考え、並べ直して言葉にするというのが、私たちが今取り組もうとしている「文章を書く」という作業だ。(p5参照)
さて、その作業をする上で一番大切なことは、
ということだ。この文章の最大の問題点は、本来なら句点(。)を打って次の文にするところでそれをせず、文の構成要素がどんどん次に数珠つなぎになっているところにある(p38参照)。これらをすべて、一文ずつにしたカードに分け、その関係を考えて整理していく。そのような作業をすることで何が見えてくるか。それを実際にやってみよう。
- これからの日本の社会にとって最も重要なのは高齢化だ。
- 医学の進歩
- 昔より老人が長生きするようになった。
- 現代の女性が男性のように一人で仕事をするようになった。
- 女性がなかなか結婚しなくなった。
- 女性が結婚しても昔より子どもを産まなくなった。
- 高齢化
- 少子化
- 老人が増えすぎる。
- 老人ホームが足らなくなった。
- 老人の介護をしなくてはならなくて、介護しなければならないひとがあまり仕事ができなくなる。
- 老人が長生きして増える。
- 若者たちが多く税金を払わなくてはならない。
- どんどん人口が増える。
- 町がにぎやかになる。
- 食料がなくなる。
- 住むところがなくなる。
- もっと老人ホームを作る。
- もっと子どもを生むべきだ。
- 食料や住むところがなくなる。
- 食料は今どんどん発達しているクローン技術により増やして対策を取れる。
- 住むところの問題が解決できない。
- 森林を切り倒して住むところをつくることができる。
- 森林を切り倒すと、緑がなくなってしまう。
- 緑がなくなると、生きることができなくなる。
- 高齢化や少子化などの問題を解決しようとしても次々と新しい問題が出てくる。
- 二十一世紀を平和にするために
- ボランティアなどをする。
- 問題を解決するため私たちも努力するべきだ。
これを、意味や関係を考えながら並べ替える。その際関係付ける上で足りないカードを足していく。
- これからの日本の社会にとって最も重要なのは高齢化だ。
- 高齢化
- 高齢化とは
- 老人が長生きして増える。
- 老人が増えすぎる ←↑どちらにするか
- 高齢化の原因
- 医学の進歩
- 昔より老人が長生きするようになった。
- 医学の進歩
- 高齢化の問題点
- 老人ホームが足らなくなった。
- 老人の介護をしなくてはならなくて、介護しなけれなばならないひとがあまり仕事ができなくなる。
- 若者たちが多く税金を払わなくてはならない。
- 高齢化の対策
- もっと老人ホームを作る。
- ボランティアなどをする。
- 高齢化とは
- 少子化
- 少子化とは
- 子どもが減っている
- 少子化の原因
- 女性がなかなか結婚しなくなった。
- 女性が結婚しても昔より子どもを産まなくなった。
- 理由
- 現代の女性が男性のように一人で仕事をするようになった。
- 理由
- 少子化の対策
- もっと子どもを生むべきだ。
- 少子化とは
- 高齢化や少子化などの問題を解決しようとしても次々と新しい問題が出てくる。
- 医学の進歩により人が死ななくなる。
- 結果
- どんどん人口が増える。
- よい点
- 町がにぎやかになる。
- 問題点
- 食料がなくなる。
- 住むところがなくなる。
- 対策
- 食料は今どんどん発達しているクローン技術により増やして対策できる。
- 住むところの問題は解決できない。
- 森林を切り倒して住むところをつくることができる。
- 森林を切り倒すと、緑がなくなってしまう。
- 緑がなくなると、生きることができなくなる。
- 森林を切り倒して住むところをつくることができる。
- よい点
- どんどん人口が増える。
- 結果
書こうとすることの関係を右のように考えていくと、自分が少子化についてと、高齢化についてとを一緒(しっしょ)くたにして考えていたことが分かるだろう。
また、自分がかなり人口が増えた場合の対処法にこだわっていることも分かるだろう。だが、この人口が増えるということと、少子化・高齢化とを関連づけようとしてかなり苦労するはずだ。
たとえば、
老人が増えすぎる=人口が増える
というふうに考えると、「町がにぎやかになる」がおかしい。少子化のことを考えると、
少子化=人口が減る
にならなければならないような気がしてくる。
ここで、自分の考えがおかしいことに気づかなくてはならない。少子化がなければ、医学の進歩によって確かに人口は増えるはずだが、少子化があるから、実際には人口が減るのである。そのように考えると、
老人が増えすぎる=人口が増える
と同一視することの問題点にも気づくだろう。本当は、人口が減るのに老人が増えるのである。
さてそれでは、少子化と高齢化との関係はどこにあるのだろうか。
少子化になるということは、親より子、子より孫の世代が少ないということだ。ということは、人口における若者の世代、すなわち税金を納め、高齢者の面倒を見る人たちが徐々に少なくなっていく世の中だ。そうすると当然面倒を見てあげなければならない人たち、すなわち高齢者の割合がどんどんあがっていく。これが高齢化だ。
それでは、医学の進歩によって起こる高齢化とはなんだろうか。理屈の上では、親世代と子世代との数が同じ時(二人の親に子どもが平均二人いる時)は、面倒を見てあげなければならない親世代の数は何代たっても変わらない。だから、時間に比例して高齢化が起こるようなことはない。だが、医療の進歩によって人が長生きになると、それ以前に比べて、人口に占める高齢者の割合が高くなる。これが医学の進歩によって起こる高齢化だ。
以上のことを総合すると、少子化による高齢化が起こっていると同時に、医学の進歩によっても、さらに高齢者の人口に占める割合が増加しているというのが現代の先進諸国の高齢化だ。
以上のようなことを考えて、もう少し構成を考えよう。
- これからの日本の社会にとって最も重要なのは少子・高齢化だ。
- 高齢化とは
- 老人が増えすぎる。
- 高齢化の原因
- 少子化 子どもが減っている
- 少子化の原因
- 女性がなかなか結婚しなくなった。
- 女性が結婚しても昔より子どもを産まなくなった。
- 理由
- 現代の女性が男性のように一人で仕事をするようになった。
- 理由
- 少子化の原因
- 医学の進歩
- 昔より老人が長生きするようになった。
- 少子化 子どもが減っている
- 少子・高齢化の問題点
- 老人の介護をしなくてはならなくて、介護しなけれなばならないひとがあまり仕事ができなくなる。
- 若者たちが多く税金を払わなくてはならない。
- 老人ホームが足らなくなった。
- 高齢化の対策
- もっと子どもを生むべきだ。
- 取り組みがある。
- 子どもを増やすのは無理。
- ボランティアなどをする。
- もっと老人ホームを作る。
- もっと子どもを生むべきだ。
- 高齢化とは
これをつなぎ合わせて文章にしてみよう。
高齢化とは、若者に比べ、老人が増えすぎる現象である。このようなことが起こる根本的な原因は、現代の女性が男性のように一人で仕事をするようになった結果、なかなか結婚しなくなったり、結婚しても昔より子どもを産まなくなったりして、子どもが減っていることにある。
その上、医学の進歩により昔より老人が長生きするようになったことも大きく影響している。
このような少子・高齢化社会の問題点は、老人の介護をしなくてはならなくても自分たちだけでは無理があること、若者たちが多く税金を払わなくてはならないこと、老人ホームが足りないことなどが考えられる。
このような問題を解決するためには、もっと子どもを生むのが一番だ。実際、多くの子どもを産んだ人に対する補助をする自治体もあるが、女性が子どもを産まなくなった理由を考えると、これには無理がある。
だから、せめてボランティアをする機会を増やし、税金が増えても、もっと老人ホームを作り、老人を抱えている人たちを助けるように努力していくべきだ。
この例2はさほどよい例文とはいえないが、例一とは格段にレベルが違うことは君たちにも分かるだろう。ここまで整理してあれば、前ページのような考察ができず、「人口が増える。」と書いてしまっても、どこの考えがおかしいか、先生にすぐ指摘(してき)してもらえるはずだ。
※「〜しなければならない」「〜してはならない」
傍線部「払わなくてはならない」を、「払わないといけない」というと、かなりくだけた言い方になる。文章全体をこの「払わないといけない」のようなくだけた文体で書くと、かなり幼稚な文章になってしまうことが分かるだろうか。君たちは、自分の普段使っているこのような話し言葉調の言い方に注意して、「〜しなければならない」「〜してはならない」といった文章用の言葉を自然に使えるように、感覚を磨いていくことが必要である(p2 1参照)。
なおこの本では、君たちに親しみを持たせるため、許せるところでは、あえて「いけない」を使っている。この本のそういう部分の言い方はまねないことだ。