『講義』追加説明
先生方へ
国語の先生方は、なかなか忙しく、その場その場での対応に追われて、どうしても安直にコピーして授業にすぐ使えるものや、生徒に作業をさせるもの、それぞれのテーマについて適当な問題と解説が付いていて、本全部を読まなくてもつまみ食いできるようなものを求めてしまう傾向があるような気がするのですがいかがでしょうか。
確かにそれらは場合によっては有効なこともあります。しかし、それらが「これから文章を書けるように本気で自分で取り組んでみよう」という生徒にとって、本当に道しるべとなることができるかというと、それはかなり疑問です。
自分で内容を書き込んでゆくワークブックは、一見初学者向けのように体裁を整えています。しかし、それをまじめに自分でやったとしても、実は、教師と同程度の力がないと、回答例と自分の答案とを見比べてみて、自分の回答の悪いところを見つけるなどという芸当ができるはずがありません。
そして、これらは文章を書く上で、書き出しを工夫させたり、理由を考えさせたり、かなり工夫しているのは私も認めるところですが、これをたとえ全部教師が添削して完璧に仕上げさせたとしても、そのことと、一つの作品としての文章を仕上げるということとの間には、依然越えがたい壁があることを教師自身が一番よく知っているはずです。
小論文で出題されそうな代表的な問題について、例題と回答例・添削例が並べてあるものはどうでしょうか。
生徒がはたしてこれらの課題に一題一題本気で全部取り組む気になるでしょうか。そしてもし取り組んだとして、自分の解答を反省する視点が得られるでしょうか。
これらの問題集に並んでいる添削例文の多くは立派すぎて、自分の解答と見比べてどうこう判断できるような代物(しろもの)ではありません。
私が見たところでは、これらの添削例文の多くが、実はきちんとした文章を書ける大人が、あえて高校生が陥りがちなミスを犯して、見くびってレベルを下げて書いているものが非常に多いです。その結果、生徒の作文にしては、問題意識がありすぎ、しかも部分的に間違いがあるぎくしゃくした変な文章になっています。
このような例文を参考にしても、簡単な字句の使い方を正すくらいのことならできるでしょうが、肝心の「添削対象になっているもとの文」に含まれているような問題意識を、どうやったら持つことができるのかというところについては全くどうするすべもないはずです。
このように考えると、生徒が自分自身で文章を書けるような形を与えて、とりあえず文章を書けるようにしてしまおうという樋口氏の参考書に人気が集まるのにも納得がいきます。これは、とにかく自分で読んで、曲がりなりにも文章らしきものを生徒自身で構成することができるようになることを標榜(ひょうぼう)しているからです。これを生徒に勧めることができれば、どれほど楽だったことでしょうか。しかしこれについては、別項〔「樋口」の小論文本の悪口少々〕で書いたような問題があり、生徒に推薦するわけにはいきません。
私は、作文の参考書は、自分自身が自分の文章を構成し、それを自分で反省して、次のもっとよい文章を書くことができるための視点を提供してくれるようなものであってほしいと思っています。いくら練習問題を増やして、見かけの体裁を整えても、生徒自身になるべく負担をかけないで、必要な視点を提供することができなければ、それは単なる紙くずにすぎません。
私の『ねこの小論文・作文講義』では、生徒が作文を実際に書いてきたときに、それのどこがどうしていけないのか、どのように考えれば自分で文章が書けるようになるのかの視点を提供する総合的な手引書となることを目指しました。私が日頃生徒の作文・小論文を見てアドバイスしている内容をできるだけ盛り込んで、生徒自身で自学自習できるようになるべく平易に解説したつもりです。
これに対して、先生方からは授業でどう使ってよいか分からないという意見をいただきました。
確かに本書は必要事項をどんどん書いてあるだけなので、一斉指導で使うのには難しいかも知れません。
たとえば一斉指導では、〔本書の読み方〕の「作文・小論文共通」で説明したあたりを、なるべく先生自身の言葉で説明した後に、線を引かせながら本文を読ませるというような使い方になると思います。
しかし個別指導では、本書が俄然生きてくるはずです。その生徒に必要な情報が書いてある本書のページをそれぞれ示して、後ちょっとしたアドバイスを加えるだけでほとんどの指導が終わってしまうので、指導がとても楽になるはずです。そして、指導のポイントを明確にするという点でも、これはかなり有効です。
一斉指導の場合も、生徒の文章の中で、見るべき所があるものをなるべく多く配ってやって、問題になる点や、他の人と違うよい点などを本書を参考にさせながら指摘してやると、生徒の理解が高まります。(ただしそれをするには、ある程度本書を読み込んで、どこに何が書いてあるのかを把握しておいていただかなければなりません。)
本書を読みこなすだけのある程度力がある子なら、何も授業で取り上げなくても、自分で読むだけでかなりな成果を期待することができるでしょう。
本書では、課題型の例題もなく、小論文で問題となりそうなテーマについてもあえてあまり深くは取り上げないようにしているので、取り上げている例文だけを見ると、かなりレベルが低い生徒を対象にした参考書だと見られてしまうかも知れません。しかし、私の本を「本当にためになる」といってくれる生徒は、実はかなり文章を書ける生徒に多いのです。
初学者から使えることを目指して作った参考書でありながら、実際にはかなりレベルの高い内容になってしまったようです。「生徒用の参考書を書くつもりでいて、実は教師用の参考書を作ってしまった」といった方が、あるいは本当なのかも知れません。
なお文章初学者にとっては、ホームページの「作文超入門」から入ったほうが取っつきがよい場合も考えられますから、適宜併用をお願いします。その場合には、第3章・4章のあたりから『ねこの小論文・作文講義』を使い始めると、使いやすいと思います。