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文章を書くとは

 「『書きたいこと』はあるけれど、どう書いてよいか分からない」ということがあります。こういうとき我々は自分の表現力のなさを嘆くでしょう。しかしこれは本当は、表現力がどうのというよりも、「書きたいことを自分がはっきり分かっている」と思っていることの方が問題なのです。
 私たちは普段頭の中で、ものに(たとえば文章に)表現されたものほど、きちんと整理され筋道だって思考を巡らせているわけではありません。お互い関連がありそうなことを、言葉や事柄のイメージによって、関係がかなり曖昧なまま、雑然と思い浮かべて、そのような思考の全体の雰囲気を漠然と感じながら、「自分には書きたいことがある」と思っているだけのことなのです。
 ですから、こういう分かり方でしかないときにいざ文章を書こうとすると、当然のことながら、「何をどう書いてよいか分からない」ということになります。書く文章の方が、頭の中で考えたり、話したりするよりもはるかに物事の関係をきちんと整理して把握しておかなければなければならないのですから、これはそうなって当たり前なのです。
 本来文章を書くとは、一般に考えられているように、もう既に充分分かった内容を、文章という形に置き換えていくことではありません。それまで「漠然としか捉(とら)えることができていなかった書きたいもの」をきっちりと整理して、自分の考えをはっきりさせながら、文章という形に定着するというのが、文章を書くということなのです。(この作業が実際にどういうものであるかということを実感するためには、「言いたいことに向かう文章」の章を見てください。)
 だからこれは、単に表現技術の問題なのではなく、自分の思考を形作っていく創造をどうやったらできるのかという問題なのです。
 そのように考えると、この講義の最初に言ったような、「書くことがない」とか「どう書けばよいか分からない」とかいった悩みは、あって当たり前だということが分かるはずです。書く(創る)努力をしなければ、元々の自分に何もないのは当然のことですし、どのような人でも、自分のレベルに応じて、どうやって自分の思考を整理したら、きちんと整理された思考を盛った文章になるのかということに思い悩まない者はいないのですから。(『ねこ』P5、P33参照)

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