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「樋口」の小論文本の悪口少々

樋口氏の功績は認めるが

 今書店に行くと、小論文関係の本は樋口氏のものばかりが並んでいて(平成18年3月現在手に入る樋口氏の著作136点)、他の本はほとんどありません(全小論文・作文関係書籍752点中)。彼の本が最初桐原書店から出たときは、結構目新しく、しかも簡潔に要点をまとめている本だったので、私も教務室の本箱に並べて、持ち歩いたりしたものでした。氏については、「確かに〜しかし〜」の言い方を喧伝(けんでん)して広めた功績は誰しも認めるところでしょう。
 文章の書き方に一つの簡単なパターンを見つけて、誰でもそのパターンにさえ当てはめれば文章を書けるようにしようという氏の試みは、国語の先生方の「そんなもので、本当に味わいのある文章が書けるはずがない」という反感をよそに、ずいぶんと受験生には受け入れられました。それは今日の本屋の小論文コーナーにもよく現れています。


樋口氏がもてはやされるのは美しき誤解から

 私も氏の功績を認めるにはやぶさかではないのですが、ただ、今日の氏の小論文本のもてはやされぶりには、少し異常なものを感じます。それは、今日の氏の著述のもてはやされぶりが、実は氏の言っていることをよい方向に誤解したところから起こっているからです。
 4年ほど前、ある生徒が小論文を書いてきました。それは「確かに〜しかし〜」を使って書いた文章でしたが、どこか論理展開のおかしな文章でした。そのときは思いつく限りのことを、「あれを書いたら」とか、「これをこうしたら」とか指導しようとしたのですが、生徒はそれに対して、それは「ここに書いてある」とすべてについてそれぞれ答えるのです。そうして改めて見てみると、確かにそれらしいことが書いてあります。だけれども何か論理の展開の仕方がおかしい。これを考えているから次にはこれが言えるだろうという予測を裏切る文章なのです。
ホンモノの文章力 そのときはなぜ生徒がそのような文章を書いてくるのか、その発想の仕方が分からなかったのですが、翌年『ホンモノの文章力-自分を売り込む技術』(樋口裕一 集英社新書)の中で氏が取り上げている例文を読んで、やっとすべてが分かりました。
 ある程度文章を書く力がある人たち(教員)は、「『確かに』で予想される反論を少しだけ書いて、それを承認できない旨を述べ、次に『しかし』以降で自説を展開する」と書けば、まさか、「確かに」で認めた反論を受け入れられない根拠をあげずにほおっておいたまま、自説を展開しようなどとは考えないはずです。しかし、氏が上掲書で取り上げている例文のかなり多くのものが、そういう風になっています。そして、本に書いてあることだけを頼りとして文章を書く多くの受験生たちもまた、同じような書き方になってしまうのです。その結果、何かそれらしいことが書いてあるのに、発想の流れがおかしい、よく訳の分からない文章になってしまっていたのです。


あえて一々どこが悪いか添削して見せないと分かってもらえない不幸

 私の『ねこの小論文・作文講義』の〈主張に向かう部品としての各段落〉は、実は、氏の説明を本当にきちんと守った例文を作って、それがなぜいけないのかをきちんと説明しようという発想で書かれた文章です。これを読んでいただければ、私がなぜここまでこだわるのかを分かっていただけると思います。
 私はもともと理屈っぽい人間なので、文学青年や少女が先生になった方とは違い、「文章の味わい」などなかろうと、「ワンパターン」であろうと、これから様々な分野で活躍することになる若者たちが、自分の主張や考えをきちんと伝えることができる文章を書けるようになるなら、それでよいと思っています。
 しかし、氏の書いた通りの作文の書き方では、形ばかりはあるけれど、「筋道を立てて文章を書く。」という本質的な訓練には少しもなりません。それなのに、多くの先生方は美しき誤解に基づいてこれを推薦し、またいくらかの先生方は、本当にこれでよいと思っている節があります。
 これは、本当に異常な状況ではないでしょうか。少なくともそれを手に、少ない時間を割いて勉強しようとしているまじめな高校生諸君にとっては、これほど不幸なことはありません。
 私の本とて、思い違いや説明が足りないで誤解を招くおそれはあるかも知れませんが、こういう作文界の状況に対して、何らかのお役に立てるのではないかと思っています。 

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